PRIMA開発者の言葉 『プリマへの思い』Prologue
次世代型集合住宅PRIMAのこれまでの10年、そして、これから
2007年10月に横須賀市安浦町に女性専用集合住宅、プリマ壱番館が竣工してから今年で10年が経過します。
プリマ開発当時、賃貸住宅市場は明るい将来が見込まれる市場ではありませんでした。
2005年をピークに不動産証券化に伴う第一次不動産投資ブームは去り、2007年にはサブプライムローン問題が表面化、
株価は下降、地方では派遣切りにより賃貸住宅の空室が増加し、当時の賃貸住宅に関する話題の中心は空室対策でした。
大学卒業後、私は一貫して住宅に関わる仕事をしてきたのですが、最初のプリマが竣工した2007年前後は、
当時、私が携わっていた輸入注文住宅の受注が大幅に落ち込みます。どんなにデザインと性能が優れていても、安くなければ売れない、
注文住宅の業界が本格的なデフレモードへ突入したのです。何か新しい事業を模索するも、私には住宅しか仕事の知識も経験もありませんでした。
年収も下がり、私自身将来の不安でいっぱいでした。
そんな状況下、私は賃貸住宅市場に新たな可能性を予感し、プリマを開発、全資産を投入して、果敢に賃貸住宅事業を開始します。
当時、既に空室の増加が問題になっていた賃貸住宅市場ですが、物件の供給は大手ハウスメーカーが主で、
高品質な輸入住宅の販売に携わっていた私から見れば、住みたいと思えるような優良な物件は極めて稀で、特に単身者用の物件はデザインが悪く、
仕様も性能も低品質のものばかりでした。
優れた物件を市場に供給した結果、借り手がないのでは仕方ありませんが、賃貸物件には積極的に住みたいと思えるような物件がなかったのです。
ハウスメーカーは空室の増加を逆手に、家賃保証制度で、自社の物件を改良することなく、相も変わらず、
外階段型の共同住宅と建物正面に玄関ドアが並ぶ重層長屋を供給していました。
私はデザインが優れ、高品質な物件を供給すれば、そこにビジネスチャンスがあると思い、
次世代型集合住宅プリマを開発、自分がその最初のオーナーになりました。
当時の賃貸住宅市場に投じた私の一石は、その後、波紋を広げ、この10年間でのプリマの施工実績は日本全国で150棟、1,200戸を超え、
賃貸住宅業界に少なからずの影響を与えました。女性専用というコンセプト、ヨーロッパの伝統的な外観、
リゾートホテルのような内装、内廊下内階段の共用部、オートロック、単身物件での対面キッチン、
そして多目的に使える広いロフト、どれもが当時の賃貸住宅市場では新鮮でした。
プリマは多くの女性を魅了し、賃貸住宅市場に受け入れられ、受注を伸ばし、今日まで高い入居率を維持してきました。
そして、プリマはそのオーナーに安定した家賃収入だけでなく、建物を所有する喜びと誇りを与えました。
街並みを装うプリマは近隣の方にも感謝されました。
そして、自分自身でもプリマを所有し、プリマ専門の設計・建築会社を起業し、賃貸住宅に深く関わる内に、
私は住宅に対しひとつの確信を得ます。それは、住宅は個人の資産であると同時に社会資産でなければいけないという確信です。
特に賃貸住宅は、収益だけのため、景気対策や節税の手段として、建ててはいけない。
住宅は個人にとっても、社会にとっても大切な資産であり、使い捨てにしてはいけない。
住宅は日々の労働が生み出す貴重な資産を蓄える大切な器で、次の世代に引き継ぐものだという確信です。
この私の思いに共感して頂き、プリマのオーナーになって頂いた多くの方々とその関係者に深く感謝するとともに、
今、私は開発者として、プリマに対し強い責任感を感じております。
思い返せば光陰矢の如し、あっと言う間の10年でしが、その間にはリーマンショックがあり、東日本大震災があり、
政権は二度交代、地域格差と所得格差は拡大、日本の総人口は減少に転じ、少子高齢化が進行し、社会的には激変の10年でした。
賃貸住宅市場において、その中でも特筆すべきことは、日本の総人口が減少に転じたことです。総務省統計局のデータによると、
2005年に日本の人口は戦後初めて減少に転じ、2006年には若干増加するも、2007年以降は一貫して減少しています。
減少数は年々増加し、2007年の127,770千人から2016年の126,730千人へとこの9年間で約1,000千人、日本の人口は減少しました。
この数は秋田県全体の人口に等しく、驚くべき数字ですが、更に驚くできことに、
国立社会保障・人口問題研究所は2050年には日本の人口は92,000千人に減少すると推計しております。
今から、30余年後、総人口の約25%が減少するのです。それは同時に、高齢者の激増と、若者の激減を意味しております。
人口増による市場の拡大を前提とする資本主義社会では、長期にわたり総需要が減少するという、これまで誰も経験したことのない未曽有の事態です。
この未曽有の事態はあらゆる産業に資本主義経済の理論では対処不可能は影響を及ぼし、賃貸住宅の市場にも想像を絶する影響を与えることが予想されます。
国土交通省発表の住宅経済関連データによると、2003年の住宅戸数は53,900千戸、空き家は6,600千戸、借家の空き家は3,670千戸です。
2013年では住宅戸数は60,630千戸、空き家は8,200千戸、借家の空き家は4,290千戸です。
2003年から2013年の10年間で住宅は6,730千戸増え、空き家は1,600千戸、借家の空き家は620千戸増えました。空き家率は12.2%から13.5%へ、
借家の空き家率は17.6%から18.8%へ増加しました。この間、日本の総人口は減少したのに、住宅戸数の増加ほどに空き家は増加しませんでした。
総世帯数が47,260千世帯から52,460千世帯へと5,200千世帯も増えたからです。主にひとり住まいの老人と結婚しない若者の単身世帯が増えたのです。
しかしながら、空き家の増加を押し留めていた世帯数の増加も2020年以降は首都圏においても減少に転じ、今後、空き家と空室の増加に拍車が掛かります。
日本の不動産業界は、戦後一貫して新築物件を中心とした市場でした。中古住宅の流通は、欧米に比べ極めて少なく、
戸建住宅も賃貸住宅も築後30年もすれば、建物の市場価値はなくなり、建て替えられる消耗品でした。購入者の新築志向も強く、
良いものを長く使うという考えはありませんでした。
しかしながら、これから日本の不動産業界は新築中心のフロー型のマーケットから中古物件を中心としたストック型のマーケットに移行します。
本格的なストック型の社会の到来です。既に、若い世代を中心に、洋服や家具を選ぶとき、新品より中古品を選ぶ人が増えています。
安価な新品が溢れるなか、わざわざ中古品を選ぶのは経済的な理由だけではありません。年月を経て失われない本物の逸品、
ヴィンテージの価値をそこに見出すからです。そして、中古品を好む傾向にある人は、新品を選ぶとき、必ず長く使えて飽きることない、
良いもの、ホンモノを選ぶ傾向にあります。
ストック型のマーケットは、中古が良くて、新品がだめという市場ではありません。ストック型のマーケットは、そのものの本当の価値、
中古であれ、新品であれ、ホンモノかどうかがより厳しく問われる市場なのです。良いものは良い、ダメなものはダメなのです。
新しいから、今はやっているから、安いから、みんな持っているからというフロー型のマーケット理論はそこでは通用しません。
そして、ストック型の社会では、人も企業もホンモノかどうかを見極める目、目利きの能力を持たなければ、生き残れないのです。
そして、その結果として、消費重視の成長社会が成熟した文化社会へと移行するのです。
今後、日本の不動産市場で増加が予想される空き家と空室でも、良いものは良い、ダメなものはダメなのです。
良いものは再生利用され、ダメなものは解体除却され、自然淘汰されます。その過程において、戦後初めて日本人は住宅の本当の価値を真剣に考えるようになります。
消費者の新築志向は弱まり、奇をてらう住宅や、工場生産の住宅や、ローコストの住宅は今ほど建てられなくなるでしょう。
既にもう、若い世代を中心に、中古住宅を買い、リフォームして、居住する人が増えています。
現役世代が見捨てた古い団地をフルリノベーションし、若者が集まり新たなコミュニティーを形成し、地域を活性化させる事例も増えてきました。
そんな若者に選ばれた住宅は古くても、ホンモノの住宅です。時代遅れの成長戦略を掲げ、新築住宅の着工数に一喜一憂する政府を尻目に、
今の若者の中では、ストック型の不動産市場に必要な目利きの能力が既に育ちつつあるのです。
将来を思えば、暗いことばかりの不動産業界ですが、このことだけは明るい話題です、とても嬉しいことです。
今後の賃貸不動産業界で生き残るためには二つの方向しかありません。一つは今ある建物を再生し、利用する方向、
もう一つは、新築であれば、今の市場にないホンモノの建物を建てる方向です。どちらの方向を選ぶにせよ、
事業者はホンモノを見極める目利きの能力が必要とされます。中古物件を購入する場合、駅からに距離、専有面積、築年数、現況の入居率、
表面利回等の数値データだけで物件を判断してはいけません。
構造はしっかりしているか、どのような建材が使われているか、建物デザインは美しいか、周辺の環境はどうか、
現地に出向き、実際の建物を見て、見極めなければいけません。新築であれば、同じような建物が既に市場で余っていないか、
耐震、断熱性能はどうなっているか、素材の良い建材を使っているか、汎用性のある間取りかどうか、
長く使って維持費が高額にならないか、飽きられないデザインの美しい建物かどうか、ホンモノの建物を建てなければなりません。
相続税対策になるから、大手メーカーの家賃保証があるから、そんな理由だけでは絶対に賃貸住宅を建ててはいけないのです。
どの業界でもそうなると思うのですが、今後の賃貸住宅経営に必要なのは物件がホンモノかどうかを見極める目利きの能力です。
これからの10年、そしてそれからも、日本の総人口は減少、総需要は低下、新築住宅の着工数は減少し、空き家と空室は増加の一途を辿ります。
経済活動は長期低迷、地域格差、所得格差は増大し、少子高齢化がますます進みます。日本が近代史上、経験したことのない縮小する社会の到来です。
その上、日本の債務残高は優に1,000兆円を超え、増えるばかりで、返す当てはありません。
何をするにもリスクばかりが強調され、失敗すれば自己責任、どこにも安定はありません。将来に夢も希望も持てず、絶望する若者も多いと思います。しかしながら、
先に述べたように、若い世代の中から、古いものの中からホンモノを見つけ出し、それを大切に使う、新しい価値観、そして目利きの能力が芽生え始めています。
私はこれら若い世代に期待します。なぜなら、資本主義を超える経済学も、今後100年の社会を支える革新的な思想も、これからの若い世代からしか生まれようがないからです。
だから、私の世代も、私以前の世代も今の若い世代に偉そうに説教したり、自分の考えを押し付けたり、ましてや、その労働力を搾取したりするのはもう止めにしましょう。
将来の世代のことを真剣に考え、国の借金は先送りせず、今の世代で出来るだけ返済しましょう、これ以上の負債、不良資産を次の世代に残すのはもうやめましょう。
個人住宅も賃貸住宅も、使える建物は今あるものを大切に使いましょう。新しく住宅を造るなら、時代に飽きられない美しいデザインで、
品質の良い素材を使い、決して消耗品でない、長く使えるホンモノの住宅をつくりましょう。そして、その住宅を社会資産として次の世代に残しましょう。
私が10年前に開発した次世代型集合住宅プリマはそんな私の思いを形にした建物です。
プリマに注ぎ込んだこの思いを、これからも私は、賃貸住宅事業を通じ、より多くの人々に伝えていきたいと思います。
そして、今あるプリマを、これから建てるプリマを、他には何も残せませんが、プリマだけは価値ある資産として次の世代に残したいと、私は思っております。
OUGUST取締役 中谷光伸氏